ことし世界トップクラスの省エネ性能を誇るスーパーコンピューターの開発に成功して注目を集めた東京のベンチャー企業の社長らが、経済産業省が所管するNEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構にうその研究実績の報告書を提出し、助成金4億3000万円余りをだまし取ったとして東京地検特捜部に逮捕されました。
逮捕されたのはスーパーコンピューターの開発を手がける東京・千代田区のベンチャー企業「PEZY Computing」の社長の齊藤元章容疑者(49)と元事業開発部長の鈴木大介容疑者(47)で、東京地検特捜部は、会社や齊藤社長の自宅などを捜索しました。
特捜部の調べによりますと、齊藤社長らは3年前、経済産業省が所管するNEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構からベンチャー企業の技術開発を支援する助成金4億3000万円余りをだまし取ったとして、詐欺の疑いが持たれています。
齊藤社長らはスーパーコンピューターに使われる新型メモリーの研究開発で、NEDOに助成の対象となる費用を水増ししたうその研究実績の報告書を提出し、助成金をだまし取った疑いがあるということです。
「PEZY Computing」など齊藤社長が経営するベンチャー企業2社はことし10月、計算速度が国内最速で、世界トップクラスの省エネ性能を誇るスーパーコンピューター「Gyoukou(暁光)」の開発に成功したと発表し、注目を集めていました。
NEDOによりますと「PEZY Computing」はこれまでにNEDOから5つの事業で合わせて35億円余りの助成金を受け取っているということで、特捜部はスーパーコンピューターの開発をめぐる多額の資金の流れについて実態解明を進めるものと見られます。
特捜部は2人の認否を明らかにしていません。
齊藤社長らが逮捕されたことについて、NEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構は「捜査中のことであり、コメントは差し控えますが、今後は東京地検の捜査に全面的に協力し、事実の確認に努めて参りたい」というコメントを発表しました。
有識者「国からの補助金が頼り 今後が心配」
スーパーコンピューターに関する文部科学省の有識者会議で主査を務める小柳義夫神戸大学特命教授は「スパコンは、人工知能や航空機の設計、それに自動運転など現代科学の基盤となる重要な技術だ。計算速度を競う世界ランキングでは、日本のスパコン『京』が2011年にトップにたったものの、最近は、中国が10期連続で世界のトップを維持し、『京』の順位は下がり続けていた。そうした中、ことし11月のランキングで『PEZY Computing』が開発した『Gyoukou(暁光)』が4位に入り、今後の応用に向けて期待が集まっていたところだった。会社は製品を売っているわけではなく、国からの補助金が頼りだったはずで、会社がつぶれるようなことになれば、期待された技術だけに今後どうなるのか非常に心配だ」と話していました。
国内最速のスパコン開発で注目集めた
齊藤社長はスーパーコンピューターやAI=人工知能などを開発するベンチャー企業の創業者で、ことし10月、計算速度が国内最速で世界トップクラスの省エネ性能を誇るスーパーコンピューターを開発したと発表し、注目を集めました。民間の信用調査会社などによりますと、斉藤社長は新潟県出身で、東京大学医学部の附属病院に医師として勤務したあと、アメリカのシリコンバレーで画像診断システムを開発するベンチャー企業を立ち上げ成功を収めたといういことです。
そして7年ほど前に東京に拠点を移し「PEZY Computing」など2社がことし10月に開発に成功したと発表したスーパーコンピューターやAIの開発に乗り出しました。
そしてことし10月、斉藤社長が経営する「PEZY Computing」など2社は計算速度が国内最速で世界トップクラスの省エネ性能を誇るスーパーコンピューター「Gyoukou(暁光)」(ぎょうこう)の開発に成功したと発表し、ベンチャー企業が少ない人員で大手企業などを上回る性能のスーパーコンピューターを開発したとして注目を集めました。著書によりますとこれまでに立ち上げた研究・開発系のベンチャー企業10社の累計の売上高は1000億円を超えるということです。おととしには日本の産業界で活躍する独創的な人材を表彰する日経BP社の「日本イノベーター大賞」で「大賞」に選ばれたほか、去年は2030年を展望しデフレ脱却や経済再生策を検討するために内閣府が設置した会議の委員にも選ばれていました。
この会議で斉藤社長は「2030年にも1台のコンピューターが全人類の知能を超え、社会に巨大な変革が起きる可能性がある」などとスーパーコンピューター開発の重要性について積極的に発言していました。
開発したスパコンは
齊藤社長が経営する「PEZY Computing」など2社がことし10月に開発に成功したと発表したスーパーコンピューター「Gyoukou(暁光)」は1秒当たり、1京4130兆回の計算速度を記録し、富士通が開発した「Oakforest-PACS」の記録を超えて、国内最速を達成しました。省エネ性能を示す、消費電力1ワット当たりの計算回数では、世界1位に相当する1秒間に146億9000万回を記録しました。
「Gyoukou(暁光)」は神奈川県にある国立研究開発法人海洋研究開発機構に設置されています。
スーパーコンピューターの開発では大型化に伴う消費電力の抑制が課題となりますが、「PEZY Computing」などは独自に開発したプロセッサーを電気を通さない特殊な液体に浸して冷やすことで、速い計算速度と高い省エネ性能を実現したということです。
先月発表されたスーパーコンピューターの世界ランキングでは「Gyoukou(暁光)」が1秒当たり1京9140兆回の計算速度を記録し国内最高の4位となったほか、同時に発表された省エネ性能を比較するランキングでも、斉藤社長が経営する2社が開発したスーパーコンピューターが1位から3位を独占しました。
少ない人員で開発したにもかかわらず、それまで国内トップだった富士通のスーパーコンピューターの記録を上回り、一躍、注目を集めました。
齊藤社長はこれまでに出版した著書の中で「スーパーコンピューターの性能の向上は、巨大な変革をもたらし人類はエネルギー問題や食料問題などから解放される」と開発の意義を強調し、「日本人こそが次世代スーパーコンピュータを開発し、新世界を創出しなくてはならない」と訴えていました。